レーニンの亡霊「プロパガンダ(洗脳)」による民主主義恐怖症が再発・悪化した?プーチン大統領

プーチンの民主主義恐怖症

2022年3月末ロシア軍は東部制圧に遅れが出ているとして東部戦線に部隊を集中させるためウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊から撤退しました。

撤退後、町や村で民間人の虐殺遺体が見つかり、ウクライナ戦争犯罪としてロシアを非難しました。しかし、ロシアの外交部はフェクニュースとしてまったく意にかいすことなく、化学兵器核兵器の使用さえもほのめかしています。

 

例え、ウクライナが反ロシアになり、東部ロシア系住民と衝突しているとしても外交で解決する方向を選ばず、よくも他国を攻撃したうえ、このような蛮行を行うことができるのか私には理解できません。

 

ソ連時代の筋金入りのプーチン民主化に移行したもののあまりにも急激な変化に民主主義の本当の姿を理解できず、「民主主義はロシアを滅ぼす欧米の陰謀」で「反ロシアに寝返ったウクライナ政権はロシアの安全を脅かすヒトラー並みの悪人」で許せないと「強いロシアの復活」という「正義」の名のもとにプロパガンダを再び戦略として復活させ、ウクライナ侵攻に踏み切ってしまったのです。

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1991年ソ連が崩壊するまで74年間共産党政権がメディアを支配し、プロパガンダを続けたことからダニエル・スミスは「プロパガンダ」を「洗脳」と同義語であると定義しています。(参考1)

 

レーニンが撞いてスターリンが捏ね毛沢東が味付けした共産党伝統のプロパガンダ餅をプーチンと政権を運営する側近4人そして多くのロシア国民が長年食べ続け、民主主義を信じることができなくなった「民主主義恐怖症」中毒が再発し、末期的症状なったとしか思えません。

 

「自分は神の意思を知っていると確信して、それをやり遂げるためならばどんな犠牲を厭わないと決心したとき、その人物は世界一危険な存在になる。」(参考9)

 

針の目や大聖堂などのベストセラー作家ケン・フォレットが16世紀エリザベス一世時代を舞台にして書いた小説「火の柱」で主人公の母親が言った上記のことばは21世紀のプーチンの所業にいみじくも言い得たことばであると思いました。

 

また、ケン・フォレットの最新作「ネヴァ―」ではアメリカと中国の間で小さな武力報復を繰り返しており、取返しをつかない結果にならないため外交交渉を続けるも、払拭できない米中両国の不信感から疑心暗鬼がつのり、結局、核兵器のボタンを押してしまうという最悪の結果を招いて世界の終焉に向かって行くという背筋の凍る内容でした。(参考10)

 

追い詰められたらプーチンはやりかねないと世界から懸念の声が上がっていますが見守るほかないのでしょうか。

そういえば、1962年10月すんでのところで核戦争の危機を回避したキューバ危機がありました。 

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プーチン政権を支える4人の閣僚】

特に共産党政権を支えた筋金入りの党員だった男たちに民主主義政権を維持することは土台、無理でした。 彼らは共産党の常套手段のプロパガンダ戦略を使って国民を洗脳することは当然と思っており、プーチン独裁政権を盤石にしようとしていると思われます。

 

1.ニコライ・パトルシェフ 安全保障会議書記(サンクトペテルブルグKGB支部の元同僚)

2.アレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安庁FSB)長官(同上)

3.セルゲイ・ナルイシキン対外情報庁(SVR)長官(同上)

4.セルゲイ・ショイグ国防相

 

ショイグ国防相以外のプーチンと3人は1970年代のサンクトペテルブルグKGB支部での同僚で、プーチンは2000年大統領に就任後、4人を政権に招きシロビキ(ソ連崩壊後にできた用語で武闘派、強硬派またはタカ派のこと)の最大派閥を作りました。

 

特にKGB時代の1年先輩で強硬な安保思想と帝国復活思想を持つパトルシェフ書記はプーチンが最も信頼する人物で、2021年末「ウクライナ指導部はヒトラーなみの悪人ぞろいだ」「ウクライナのネオナチが東部でジュノサイド(大量虐殺)を行っている」と非難しています。

 

2月24日プーチンが開戦演説で同じことを言っているのでウクライナ侵攻はパトルシェフ書記と2人で決定した可能性があると言われています。(参考5)

背後にいる欧米諸国の関与により2014年2月政変が起き、以降ウクライナ政府は反ロシアになりロシアの安全保障が危機になったそして新政権からロシア系住民人を守るという名目で2014年クリミア半島を併合しました。今回のウクライナ侵攻も2021年7月のこのプーチン論文が基になっているといわれています。

(参考6)

 

民主化ロシアが再び欧米不信に陥った理由】

4月1日の読売テレビ「ミヤネ屋」で1991年から2018年までの28年間ロシアで暮らした国際関係アナリストの北野幸伯(よしのり)氏は「民主主義と欧米への不信感」を裏付けるような話をしました。

 

ロシア人の妻を持つ北野氏は1991年ソ連崩壊を目の当たりにし、その後、新しいロシアの誕生、その後の大混乱、そして2000年の復興までをロシア国内でロシア国民の立場で見た体験でした。

 

ソ連崩壊(1991年)の1年後からルーブルが暴落し、インフレ率が26倍になり、物価は26倍に跳ね上がり、共産党政権時代から何十年も働き、住宅・生活・老後のための貯金した蓄えが一瞬で26分1になり、老後の資金どころか現在の生活もなりたたなくなりました。

ロシア国民は前の共産主義政権時代ならばこんなことにはならなかったと怒りが噴出し、大混乱になりました。(参考2)

 

ロシア国民はソ連を崩壊させ、国民の生活基盤を奪ったのは民主主義(プロパガンダに染まった国民は資本主義経済を理解できず)のせいなのに、欧米は何の支援をしてくれないとアメリカ不信そして陰謀論まで出たといいます。

(中国の場合は共産主義を堅持しながら経済だけ市場主義を採用した社会主義市場経済を構築し成功しました。)

 

【政権を支える新興財閥(オリガルヒ)の誕生】

資本主義に移行したエリツィン政権は市場経済に対応し、同時に政権の財政基盤を支えるため、政権寄りの人物に国有の大企業の経営を委ねました。政権と結びつき市場を独占した新国営企業は1990年中半になると巨大企業化し、新興財閥(オリガルヒ)と呼ばれるようになります。

 

特にエリツィン時代の資源企業を中心とする国有企業を率いる7人の経営者は「オリガルヒ7人組」と呼ばれロシア経済の半分を支配したと言われました。(参考7)

 

一方で国有企業の一部を民間に払い下げを行い、国有企業の株を元共産党員などに配布しました。しかし、プロパガンダに染まった大部分の元共産党員は株券の価値を理解できませんでした。彼らはこんな紙切れを貰っても生活の足しにならずと戸惑いと不満が続出しました。

 

そんな混乱時に一攫千金のチャンスとばかり現れたのが商才に長けた極少数のユダヤ人やロシア人でした。彼らは元党員に株券購入を持ち掛け、二束三文で買い集め、小売り業、サービス業、メディアなどの企業の経営権を掌握し、さらに買収や投資を行い、大きくしていきました。

そして民間の新興財閥(オリガルヒ)も形成されるようになりました。

 

そして新興財閥(オリガルヒ)の経営者は大富豪なり、エリツィン時代に資産10億ドル(1200億円)以上の国営・民営のオリガルヒ(富豪実業家)は70~80人誕生したと思われます。(参考8)

 

オリガルヒは富を背景に政治・社会に大きな影響を与えるようになり、帝政ロシアの富裕階級を思い起こさせるオリガルヒに国民は次第に妬みと反感を覚えるようになりました。

 

1991年のソ連崩壊後からの混乱が安定に向かうと思われた1998年、ロシアは資源価格の下落とアジア通貨危機のあおりを受け、財政・金融危機に見舞われまれ、銀行、企業が破綻、生活困窮者が続出、ロシアは再び崩壊寸前に陥り、世界も大打撃を受けました。

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経済危機最中の1999年に「強いロシアの復活」を掲げたプーチンが現れ、53%の高支持率を得て2000年5月に大統領になります。

その後、世界経済が持ち直し、好調が続くとロシアの豊富な石油・天然ガスレアメタルなどの天然資源の輸出も伸び、資源価格の上昇も相まってロシア経済は復活します。ロシアの復活はプーチンの功績であるとしては2004年70%以上の支持率を得て2期目の大統領に就任しました。

 

この間、ロシアでは民主主義への移行過程で不都合な面が次々と現れ、プーチンも国民も民主主義に幻滅を感じるようになります。すると、プーチンは高い支持率を背景にかつてのソ連時代の独裁・強硬路線へ回帰していきます。

 

プーチン大統領は国家崩壊寸前に追い込む金融危機を招いた原因は欧米民主主義の影響を受け企業を私物化したオリガルヒによる脱税であるとして巨額の追徴課税を課しました。

 

独立系のメディアのグシンスキ―や独立系石油企業ユコスのホドルコスキーなどのオリガルヒは反プーチンを掲げ、異をとなえますが、逮捕、巨額な追徴課税で破綻、企業は分割・国有化されました。

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プーチンの圧力に降り、協力することになったオリガルヒは追徴課税を払い、存続を許されました。こうしてプーチン独裁政権の財政は強固になっていきました。

 

特に軍やKGBなど治安機関出身のシロビキ(武闘派)などプーチンの元職場の同僚や部下がプーチンを支える国営企業のトップに就いてオリガルヒとして大富豪になっており、反感を覚える国民も多いはずです。

 

順位    国営企業               売り上げ高(億ルーブル)

第1位 ガスプロム社長 アレクセイ・ミレル 6322(サンクトペテルブルク市役所時代のプーチンの部下)

第2位 ロスネフチ社長 イーゴリ―・セイチン 5371(サンクトペテルブルク市役所時代のプーチンの部下)

第6位 投資会社社長 ロステクのセルゲイ・チェメゾフ 1870(KGB出身)

第8位 VTB銀行総裁 アンドレイ・コスティン 1369(KGB出身)

 

【参考】

1.「図説 世界史を変えた50の戦略」、ダニエル・スミス、小林朋則、原書房、2016.1.26

3.「ロシア側から見た一般ロシア人の考え方について」、国際関係アナリスト北野幸伯(よしのり)、読売テレビ13時のミヤネ屋、2022.4.1

4.「私がロシア人の妻と子供と共に、モスクワから逃亡した理由」、国際関係アナリスト北野 幸伯、

www.nippon.com

5.「プーチン政権 側近4人とサークル結成 盟友はパトルシェフ氏」、拓殖大教授名越 健郎、週刊エコノミスト毎日新聞出版、2022.3.29

6.「解説 プーチン論文 ロシアとウクライナは一体 都合の良い歴史観が下敷き」、法政大教授 溝口修平、週刊エコノミスト毎日新聞出版、2022.3.29

7.「ロシア企業 資源・国営の大きな影響力政権を支えるオリガルヒ」、上智大教授 安達裕子、週刊エコノミスト毎日新聞出版、2022.3.29

8.「資産10億ドル(1200億円)以上を持つオリガルヒ」、日本経済新聞、2022.4.2

2021年117人 → 2022年3月11日83人、2022年2月末の金融制裁で34人減

9.「火の柱 上巻 364頁」、ケン・フォレット、戸田裕之訳、(株)扶桑社、2020.3.21

1558~1620年のエリザベス一世のイギリスで宗教戦争やイギリスがスペインの無敵艦隊を破り世界に進出した頃の小説である。

10.「ネヴァ― 「世界の終焉」予言の書!」、ケン・フォレット、戸田裕之訳、(株)扶桑社、2021.12.2

米中間の小競り合いの報復を重ねて行くうち、しだいに大きくなり、予期せぬことが起こり、ついに核兵器を使用に至り、世界の終焉を暗示させる小説である。