世界67ヵ国の数学関連団体でつくる国際数学連合が2006年8月22日に「確率微分方程式」を考案した京都大学の伊藤清名誉教授(90歳)を「ガウス賞」の初代受賞者に選んだという報道がありました。
ガウス賞は実生活に役立つ数学の応用で、世界の最高に実績を上げた研究者を表彰して功績を世界に知らしめるため、天文学や物理学、統計学に大きな影響を与えたドイツの数学者ガウスにちなんで創設したものだそうです。
伊藤清教授は東大理学部数学科を卒業し、内閣統計局に勤めていた1942年にブラウン運動(粒子の不規則な運動)を予測する確率微分方程式を発表しました。
この方程式は1960年代に物理学や工学に使われるようになり、1997年、この方程式を応用し、金融派生商品いわゆるディリバティブの価格決定理論を発表したアメリカの大学教授2人がノーベル賞経済学部門受賞しました。
【1997年ノーベル賞経済部門の受賞者】
1.システム・サイエンス出身の金融経済学者スタンフォード大学教授マイロン・ショールズ(Myron Scholes)
2.数学出身の経済学者でハーバード大学教授ロバート・マートン(Robret Merton)
そして、その基本の式を生んだ伊藤教授が脚光を浴びるようになり、今では「ウォール街で最も有名な日本人」呼ばれているそうです。
この記事を読んだとき、1998年に放映されたNHKスペシャル「マネー革命」を思い出しました。
この番組の中でディリバティブの最適自動取引するため、コンピューターに組み込んだ価格予測システムの基本となったのは日本人「伊藤の式」であるとアメリカの関係者が語っていました。
LTCMこと「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント」(Long Term Capital Management)という投資運用会社にノーベル賞経済部門受賞者マイロン・ショールズとロバート・マートンがおり、彼らはディリバティブ商品価格予測式をつくりました。
そして、LTCMは十数兆円(1000億ドルを越える)の天文学的金額の資金を集め、コンピュータを使って運用し、莫大な利益をあげ、世界中から注目を得て、金融工学ブームを起こしていました。
ところが、この番組取材中の1998年、予期しなかったロシアの経済破綻に対し、これまで連戦連勝していたディリバティブ商品価格予測式が対応できず、損失金額13兆円を出し、破綻してしまい、世界中が驚き、連日報道され話題になりました。
ノーベル賞賞金1憶3千万円が蚊の涙ほど小さなものになってしまうほど巨額な損失金額をだしたことに私の頭ではとうてい理解できませんでした。
1.NHKスペシャル「マネー革命」は書籍にもなりました。
「マネー革命」「巨大ヘッジファンドの攻防」第1巻 相田 洋 1999年4月 NHK出版
「金融工学の旗手たち」 第2巻 相田 洋 1999年4月 NHK出版
「リスクが地球を駆けめぐる」第3巻 相田 洋 1999年4月 NHK出版
2.LTCM伝説-怪物ヘッジファウンドの栄光と挫折- ニコラスダンバー