石油会社「ユコス」の破綻はプーチン政権のエネルギー戦略の一環か?

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8月2日産経新聞は“8月1日、ロシアの石油元大手ユコスは負債2兆円を抱え破綻した”と伝えていました。

【石油企業ユコスの誕生と事件発生】
1988年、ホドルコフスキー氏が設立したメナテップ銀行はソ連ペレストロイカとその後の新生ロシアの市場経済志向の中で急速に拡大していきました。

メナテップ銀行は多数の企業を取得し、巨大なホールディング会社を形成しました。代表的な企業として化学肥料企業「アパチト」社や石油企業「ユコス」社があります。

ユコスは、原油生産から精製、販売を行う石油・天然ガスの企業で、原油生産ではロシア第2位の世界的企業に成長していきました。

ところが、2003年7月に1994年の「アパチト」社の民営化に際して国家保有株20%(2億8314万ドル)を横領した容疑でメナテップ社のプラトン・レベデフ取締役会会長が逮捕され、2003年10月にホドルコフスキー・ユコス最高経営責任者(CEO)が逮捕されました。

ホドルコフスキーに対する容疑は、詐欺行為、裁判所決定の不履行、個人及び組織的税の不払い、欺瞞または信頼の悪用により他人の財産に損害を与えた行為、公的文書偽造、公金の使い込みで、これらにより同人は国家に対し10億ドルの損害を与えたとされています。
また、メナテップ銀行幹部10名も逮捕もしくは国際指名手配となっている。

そして、ホドルコフスキー元社長は脱税罪などで起訴され、懲役8年の実刑判決を受けた。ユコスは税務当局から総額約280億ドル(約3兆2000億円)の追徴課税を受けました

2004年4月15にモスクワ裁判所がユコスの資産売却や譲渡を禁ずる判決が出たとたんそれまで上昇していた株価は下落します。

【巨大企業「天然ガス生産会社ガスプロム」と「石油会社ロスネフチ」の誕生】
2004年8月11日、アガネシアンロシア連邦エネルギー庁長官は「ロシア全体の石油生産量の15~20%は国家が支配すべきだ」と主張しました。

まもなく、2004年9月14日とロシアの天然ガス独占企業体ガスプロムと国営石油会社ロスネフチとの合併計画が発表されました。

ロシア政府は100%保有するロスネフチ社の株式とガスプロム社の株式を交換し、ガスプロムの株保有率を51%に引きあげ、ガスプロムを国営化しました。

国営企業ロスネフチ社はガスプロムの子会社ガスプロムネフチと合併し、2004年11月19日、さらに、ロスネフチ社は政府が接収したユコス社の最大の石油生産子会社ユガンスクネフテガスを競売で手に入れ、巨大化しました。

こうして、ガスプロムは世界最大の天然ガス生産企業のとなり、ロスネフチはロシア最大の石油企業となりました。


【石油企業ユコスの破綻】
2006年1月18日ユコスが政府から35億ドルの追徴課税支払いを命ぜられ、株価は下げ開始前の株価の5%以下まで落ち込み、2006年3月13日ニコス債権銀行団が同社の破産手続きを進めるようモスクワ裁判所に要請しました。

そして、2006年8月1日、モスクワの仲裁裁判所は石油元大手ユコスの破産を正式に決定しました。

【ロシアのエネルギー戦略の動き】
2006年1月ウクライナへのガス供給停止以来、エネルギーを武器にヨーロッパへの影響力を強めています。
ロスネフチは7月ロンドン証券取引所に上場しており、ガスプロムも上場予定です。

ロシア政府はエネルギー企業から外国人や政府の意にそぐわない経営者を追い出し、国営化を進めており、追い出された経営者はロンドン証券取引所に上場を拒む依頼の書簡を送っているそうです。

ガスプロムEUが消費する天然ガスに4分の1を供給しており、ウクライナ向けガス供給ストップは政治的意図があったものとしてEUはロシア国営のガスプロムを警戒しています。

また、5月に東欧を訪問したアメリカのチェイニー副大統領は「ロシアはガスと石油を脅しと威嚇の武器にしていると」発言しました。

ガスプロムバルト海・EU間や中央アジアでの天然ガスパイプライン建設、ロスネチフはシベリア・中国間やシベリア・日本海沿岸までの石油パイプライン建設計画を進めています。

天然ガスパイプラインが完成するとEUのロシアの天然ガス依存度が大幅に高くなり、そのため、EUは短期的にはロシアとの強調路線を取り、長期的にはロシアの天然ガスの依存度を低くするという戦略の練り直しに迫られています。

現在、EUはロシアに対し、1994年に欧州49カ国が合意した“エネルギー憲章条約”の批准を要求していますが、ロシアは拒み続けているのが現状です。

ロシアはこれを認めると、外国のガス供給会社に一定の割合でパイプラインを開放しなければならないからです。

エネルギーを巡り、日本や中国も巻き込み、ロシアと欧米の「新しい冷戦時代」に入ったと分析している専門家もおります。