習近平の中国共産党100年式典演説とプロパガンダ戦略について

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共産主義指導者6人

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共産党100年式典習近平演説の超概略

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共産主義思想とプロパガンダ戦略の超概略史

2021年7月1日の中国共産党100年式典で習近平総書記は1時間にわたる演説をしました。

「経済力と軍事力が備わった。社会主義だけが中国を救い、中国の特色ある社会主義が中国を発展させる。そして、外部勢力が教師面をして説教するのは決して受け入れない」と。

 

【改造された共産主義思想とプロパガンダ

中国は国際ルールを無視した強硬な行動を繰り返し、周辺諸国と摩擦や軋轢を起こしていながら、全権力を掌握した習近平総書記は「中華民族は侵略し、覇権を追求する遺伝子はない。常に世界平和の建設者であり、国際秩序の擁護者だ。」と演説しました。

 

言行に矛盾が満ちているのに、なぜ「共産党(=中国国家、注1)は平和、発展、公平、正義、民主、自由といった人類共通の価値観を発展させる。」などと言えるのだろうか。(注1:超概略史の「習近平総書記と終身国家主席」参照のこと)

 

既に知られているように「共産主義思想と民主主義思想はまったく異なり、民主主義基準の国際ルールと共産主義基準の中国ルールは異なるからだ。」ということだけでそれ以上わかりません。

 

そこで、共産主義運動とその指導者の歴史と中国現状について超概略調べてみました。

ここ(本ブログ)では共産主義思想を広義に解釈し、「共産主義の政治体制と社会制度」と定義しました。

 

ドイツの社会・政治学マルクスエンゲルスが1848年「共産党宣言」で発表した「階級のない公平・平等な社会」の実現をめざした共産主義思想はレーニンスターリンによって改造され、中国にわたり、毛沢東、鄧小平によってさらに改造されて当初の共産主義思想は政治的にも社会体制的にもまったく変わってしまいました。

 

習近平は鄧小平の「改革・開放経済政策」を継承し、「社会主義市場経済体制への歴史的転換を果たした」と誇りましたが撲滅したはずの資本主義体制、資本階級は再びよみがえりました。

 

マルクス・エンゲルスが世界の労働者に「階級と私有財産のない公平・平等な国を労働者の革命によってのみ実現できる。万国の労働者よ 団結せよ!」と呼びかけた過激的な宣伝文句はレーニンに改造され、プロパガンダとなります。

 

労働者や農民の心をつかみ、理解しやすい「人民には平和を!」、「労働者に工場を!」、「農民には土地を!」、「すべての権力をソビエトへ」のスローガンをポスター・チラシ・小冊子、アジテーター、アジ演説などの多種多様な手段を使いプロパガンダの効果を高めます。

 

さらに、皇帝や政府要人の暗殺などを容認、労働者のデモ・ストライキを扇動するなど革命の火種をつくる一方、ボルシェビキ側の不利な情報を封印し、皇帝側の信頼低下や嘘の情報を流すなど情報統制を行うというプロパガンダボルシェビキの重要な戦略となり、1917年ロシア十月革命成功の大きな要因になりました。

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そして、4月テーゼと呼ばれる共産党政策綱領を作り、共産主義思想を改造してしまいました。

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 このプロパガンダ戦略はスターリンが継承、権力闘争に用いられ、マスコミ機関を厳しく統制し、反対する国民やライバルや革命同志まで粛清、工業化と農業集団化の強行等で数百万人を犠牲(参考8)にしてしまいますが厳しい情報操作で切り抜け、さらにプロパガンダ戦略を駆使、自ら主張した1国社会主義論を実行し独裁政権を築き、恐怖政治を行ないました。

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その後、欧米ではプロパガンダは「特定の主張を広めるため歪んだ情報を流すこと」と定義されます。そして、プロパガンダ戦略は中国共産主義指導者に継承されます。

 

ロシア革命後の1989年までの72年間、ソ連のメディア機関は共産党(国家)の支配下にあったことからプロパガンダは洗脳と同義語になりました。(参考8)

 

習近平は事情上の権力闘争(反腐敗キャンペーン)でライバルを処刑まではいかないが失脚に追い込み、2018年の全国人民代表会議(全人代)で国家主席の任期(2期10年)の撤廃を決議しました。これにより、習近平は終身の中国最高指導者「国家主席」となり、共産党最高指導者「総書記」である習近平共産党と国家(14億人の人民)と軍の全権力を掌握し、独裁体制をゆるぎないものにしました。

 

そして中国はかつて世界の中心でルールメーカーだった。今こそ「中華民族の偉大な復興」の時であるとして2018年外交方針を打ち出し、SNSなどIT技術を組み込みグレーアップしたプロパガンダ戦略「戦狼外交」や「一帯一路事業」を強硬に推進しています。

(戦狼外交:中国外務省の高官が敵対的と見なした相手や教師面して説教する相手を威嚇する外交姿勢)

2018年の外交方針

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情報統制しながら共産主義の優位性を説く演説やはでな軍事パレードは共産党常套手段のプロパガンダ戦略の一つと思われます。

理想だった共産主義思想(政治理念と社会体制)や宣伝(プロパガンダ)はロシアや中国の共産主義指導者によって改造されてしまいました。

 

中国のルールはプロパガンダ戦略と改造共産主義思想基準の「共産党存続が第一で、第二は国益」で作られているのではないでしょうか。自由・民主化・透明性を重視する国際ルールとは整合性がとれるはずはありません。

 

これまで中国ルールに基づく強硬路線は世界の国々と摩擦や軋轢を起こしています。

習近平総書記演説の「共産党が世界一流の軍隊を作るが、中華民族は常に世界平和の建設者であり、国際秩序の擁護者だ」ということばはプロパガンダとしか思えず、やっぱり習近平総書記の演説は矛盾していると思いました。

 

現在の中国において少なくとも9500万人の共産党員は改造共産主義思想を信じていると思いますが、残りの13億人の中でどれくらいの人民がプロパガンダで洗脳されてしまっているのでしょうか。

 

【参考】

1.「中国共産党100年式典 習総書記の演説(要旨)」、読売新聞、2021.7.2

2.「中国共産党100年 きしむ大国No1~No5」、読売新聞、2021.6.27~2021.7.1

3.「香港国家安全維持法施行1年 自由で寛容な社会 大きく変化」NHKニュース、2021.6.27

4.「国防法の改正草案発表」、読売新聞、2020.10.25

5.「挑発続ける中国海警船、武器使う事態を日本政府警戒」、読売新聞、2021.3.1

6.「中国海上交通安全法改正法案を可決」、読売新聞、2021.7.2

7.「共産党宣言」、フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

8.「図説 世界史を変えた50の戦略(大衆によびかける、情報を統制する)」、ダニエル・スミス、小林朋則、原書房、2016.1.26

9.「共産主義社会主義の違い」、しんぶん赤旗日本共産党、2004.5.29

10.「すぐわかる中国の歴史」、小田切 英、株式会社 翔文社、2003.5.1

11.「図説 帝政ロシア 光と闇の200年」、土肥恒之、河出書房出版社、2009.2.18

12.「ロシアの歴史」、栗生沢猛夫、河出書房出版社2011.5.30

13.「図説 ソ連の歴史」、下斗米伸夫、河出書房新社、2011.4.20