三菱リージョナルジェット(MRJ)と海外ライバル機の開発・販売競争

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2015年9月30日、三菱航空機は小型旅客機「三菱リージョナルジェットMRJ)」の初飛行を10 月26日から30日の期間中に行うと発表しました。
さらに、1年5カ月かけて総合的に地上強度試験と飛行耐空試験の実施・評価作業を行い、国土交通省航空局(JACB)の審査を受け、型式証明(用語01)を取得する。その後、FAAやEASA(用語02)の型式証明を取得し、2017年第1四半期にローンチカストマー(用語03)のANAに納入するということでした。

 

2008年3月27日のローンチ(用語04)から2014年10月28日のロールアウト(用語05)まで、すなわち製造期間は6年7カ月、それに2015年10月26-30日の初飛行から2017年1-3月の商業飛行までの1年5カ月を合計すると9年かかりました。
2002年、三菱が経済産業省の小型ジェット機開発計画を受けて2004年に新技術開発・機体概観作りを開始してから2008年3月のローンチまで4年かかっております。
設計期間と製造から商業運航までの期間を入れた実質の開発期間は実に13年の歳月がかかりました。

 

市場調査結果、座席増加が予測され、設計を変更したり、製造着手後も主翼材料変更ありました。 加えて、「事故が起こるたび、再発防止策が追加され耐空審査要領が変更される型式証明」の壁対策に追われたことなどが大幅に遅れてしまった原因でした。

 

あらためて旅客機開発の困難さ知ると同時に知識不足に気づき、旅客機の常識についてを調べてみました。

 

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【旅客機の分類と航空機メーカーのシェア】
旅客機は超大型機、「ワイドボディ機」、「ナローボディ機」、「地域航空機」という4つのクラスに分類されます。
(【例】ワイドボディ機(広胴機):[220-400席] ボーイング787エアバスA350

 

さらに座席数で分類すると「ナローボディ機」は[100-150席]と[150-220席]の2つのクラスに分類されます。(【例】ナローボディ機(細胴機):[150-220席]ボーイング737エアバスA320、[100-150席]ボンバルディアCS100、CS300、エンブラエルE195)

 

座席数100席以下の旅客機は[60-100席]の「リージョナル(地域航空)機」と[60席以下]の「コミューター(近距離航空)機」に分類されているようです。また、リージョナル機とコミューター機を合わせた[100席以下]旅客機の中で使用されている旅客機の種類としてジェット機ターボプロップ機(プロペラ機)があります。

 

世界の旅客機市場では「超大型機」と「ワイドボディ機」と「ナローボディ機」の[150-220座]クラスはボーイング(米Boing)とエアバス(欧AirBus)の2社がほぼ独占しています。

 

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一方、「ナローボディ機」の[100-150席]クラスと「リージョナル機」はボンバルディア(カナダBombardier)とエンブラエル(ブラジルEmbraer)2社の寡占状態になっています。

 

【航空機需要予測】
ボンバルディア社は2015~2034年の20年間の世界の航空機の販売機数と販売額などを予測しています。
[60-100席]のリージョナル機は20年間で5,700機販売し、販売額は12兆6千億円(120\/$)になり、[100-150席]のナローボディ機は新たに7,000機販売し、販売額は55兆2千億円(120\/$)

 

【ライバル企業の動向】
既にボンバルディアエンブラエル2社が競合しているリージョナルジェット市場に新たに日本の三菱(MRJ)と中国の商用飛機有限公司COMAC(ARJ21)とロシアのスホーイ(スーパー・ジェット SSJ100)が参入しようとしています。

 

「商用飛機有限公司COMAC」(中国)
COMACのARJ21-700は2008年初飛行、2009年試験完了、2010年量産に入ったものの、2010年11月の強度試験で主翼が破損するという不具合が発生し、対策に追われ、大幅に遅れました。
ようやく、2014年12月30日に中国民用航空局(CACC)の型式証明(TC)を取得でき、2015年から中国国内で運用が始まっています。EASAとFAAの型式証明はまだ取得できてなく、国内向けがほとんどです。

 

スホーイ」(ロシア)
スホーイSSJ100-95は2008年初飛行、2011年にロシアの型式証明、2013年にEASAの型式証明(TC)を取得しました。2012年インドネシアで墜落事故を起こしましたが原因は操縦ミスで機体に不具合はなかったということです。
イタリア国内に製造施設を、EUに販売合弁企業を設立する取り決めをしています。既にEASAの型式証明を取得しており、当面、ロシア国内とEUの市場を狙っているようです。
2015年3月の段階で306機の受注があり、48機が就航していますが海外への販売はイタリア以外まだないようです。

 

ボンバルディア」(カナダ)
鉄道車両・航空機を製造する売上高2兆4千億円(2014年[120\/$])の約半分を稼ぐボーイングエアバスに続く世界第3位のカナダの中・小型航空機のメーカーです。
1992年[50席]CRJ100、1996年に改良型CRJ200を就航させ、既に受注・生産は終了しましたが合計935機販売しました。
旧CRJの機体に改良を加え、さらに、ゼネラル・エレクトリック製エンジンGE CF34のパワーアップや居住性を向上させた次世代型CRJ NextGenシリーズを装備し、2007年に初就航させております。2014年末まででCRJ NextGen シリーズは計778機受注し、生産・供給しています。

 

エンブラエル」(ブラジル)
売上高7千482億円(2013年[120\/$])で航空機世界第4位、ブラジルの中・小型民間機と軍用機のメーカーです。2010年まででEジェットと呼ばれるERJファミリーは1,212機受注を受け、現在も生産・供給しています。
次世代型ERJはE2シリーズとして2014年7月にローンチし、500機弱受注しており、ERJ190-E2は2018年の就航を目指して開発中です。エンジンはMRJと同じプラット&ホイットニー社の次世代型エンジンPWシリーズを装備します。

 

MRJとそのライバル】
自動車の部品は2~3万点ですが旅客機の部品は100万点にもなります。従って、1企業または1国だけで開発・製造することは不可能です。ボーイングエアバスでさえ、国内外の企業の協力を得ています。国産と言われているMRJも自社製造比率は約30%です。

 

MRJと同様にライバル機も他社のコンポーネントやシステムを使用しているおり、個々に比較しても、有意差が出にくく、MRJだけは試験飛行の実績もなく、型式証明を取得していませんので不利な状況です。しかし、MRJは407機受注でき、その半分以上がアメリカ、ミャンマーなど海外からですので海外の顧客から信用されているMRJは中国のARJ21やロシアのSSJ100よりは有利と言えます。

 

ボンバルディアの次世代型CRJ NextGenシリーズ は既に2007年から就航し、778機の受注がありますが、MRJと競合しないナローボディ機の[110席]、[135席]のCシリーズを開発中です。2013年納入予定でしたが2015年納入にずれ込んでいることからこちらに力をかけており、MRJが若干有利に働いています。

 

エンブラエルERJ E2シリーズはMRJと同じ細胴でエンジンも同じPWシリーズを使用しており、カタログ比較では有意差わかりませんが、MRJは2007年にプラット&ホイットニーのピュアパワーエンジンの燃費性能の良さをいち早く見抜き、ローンチカスタマーとしてPW1200装備を前提に機体設計をしている点が優位と思われます。

 

2017年納入予定で受注407機のMRJに対し、2018年納入予定で受注500機弱のE2シリーズは1年遅いので計画通りに納入できればMRJは有利と思われますがエンブラエルは老舗であり、E2シリーズの機体はEシリーズを改良したもので、エンジン等を除けばほとんどのコンポーネントに実績があり、そして運用経験があるので信頼性はエンブラエルが上になります。

 

今後、MRJは試験飛行や日本・海外の形式証明を取得するという難関が待ち受けていますが平行してマニアル作成、技術支援、部品の保管・供給施設の建設、故障・トラブル対応など技術サポート体制やカストマーサポート体制を構築するという難関が待ち受けています。

 

これらの難関をクリアしてMRJが無事に世界に羽ばたいて行くことを願って、進捗状況を見守っていきたいと思います

 

【用語】
(01)型式証明:航空機の強度・構造・性能が耐空性基準に適合しているかを設計・製造工程・完成後の現状に対して審査し、合格した際に製造国の機関から発行される証明書。日本の型式証明だけでは信用が低く、事実上の国際基準であるEASAやFAAの型式証明を取得しなければ世界の空は飛べない。
(02)審査機関:JACB-国土交通省航空局、FAA-アメリカ連邦航空局、EASA-欧州航空安全局
(03)ローンチ:製造着手前に完成品を待たずに、顧客に製造計画を提案説明すること。
顧客の承認・注文が製造着手を決断する決め手となる。開発開始にすることが多い。
(04)ローンチカストマー:第1号顧客、2008.3.28 ANAが最初にMRJを25機注文した。
(05)ロールアウト:航空機が完成し、完成式典などで工場から外に引き出されること。
2014年10月28日にMRJロールアウト式典(完成式典)を実施
(06)コンポーネント:構成要素をなす各部品または組み合わせて一つに構成できるようにしたもの。
部品や制御コンピュータ一を組み合わせ、まとまった機能を持たせたものなどもある。
【参考】
(1)「旅客機年鑑2014-2015」、監修・執筆 青木謙知イカロス出版(株)、2014.2.25
(2)「航空ファン6月号」、編集 三井一郎、(株)文林堂、2015.4.21
(3)「翔べ、MRJ」、杉本要、日刊工業新聞社、2015.3.20
(4)「Mitsubishi Regional Jet」、三菱航空機http://www.mrj-japan.com/
(5)「MRJ」、ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/
(6)「MARKET FORECAST 2015-2034」、「Bombardier Aerospace Commercial Aircraft」
http://www.bombardier.com/en/aerospace/
(7)Bombardier Commercial Aircrft、http://www.bombardier.com/en/aerospace/
(8)「ボンバルディア CRJ」、ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/
(9)「Embraer Commercial Aviation」、http://www.embraercommercialaviation.com/
(10)「エンブラエル E-Jet」、ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/
(11)「ARJ21」、ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/
(12)「スホーイ スーパー・ジェット100」、ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/