石油の歴史No43【クーデターにより王制から共和制に転換したイラク】

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1957年終結したスエズ動乱はナセルを英雄に仕立て上げ中東諸国の民族主義の勢いを盛り上げる結果となりました。そして、石油は高揚する民族主義の中心でありました。エジプトは石油産油国ではありませんが、ナセルは主権の問題、植民地主義に対する闘争に石油を利用し、湾岸諸国への影響力を確保しようとしました。

1957年春、エジプトでアラブ石油専門家会議が開催され、民族主義の高まりと対決姿勢は石油会社を越え欧米に向けられるようになりました。しかし、石油輸出国間の組織体の設立は始まったばかりで影響力は弱く、力を持つためには中東以外の大産油国のイランやベネズエラの参加が必要でした。

イラク革命】
1919年第一次大戦終結以前、クウェートイラクオスマン・トルコ支配下にあり、バスラ州に属していましたが1920年旧オスマン・トルコ領の処理に関するサイクス・ピコ協定により、イラククウェートはイギリスの委任統治領におかれました。

イラクではナセルのアラブ民族主義に共鳴し、イギリスが後押しするイラクのハーシム王朝への反発が高まりました。1958年7月14日早朝、数人の士官を率いてアブドル・カリム・カセム准将はクーデターを起こします。王宮を包囲して攻撃し、国王ファイサル二世とその一族を虐殺しました。首相ヌリ・エスサイドは女装して逃亡しようとして群衆に捕まえられ殺され、バクダットは火に包まれ血に染まりました。多数の外国人が殺され、イラク国内のあちこちで暴動が発生しました。

親ソ派のカセムを首相とするイラク共和国が樹立しました。イラクでのクーデターを機にさらにアラブ世界に反英、反ユダヤ感情が高まりました。
1959年1月親ヨーロッパ国のイラクを失う危機を抱いたイラク石油(*1)はイラクのバグダットでカセム首相と話し合いしました。

イラクは混乱状態で石油の収入を失い、行き詰まったカセムはあくまでも生産の倍増を要求します。しかし、イラク石油はカセムの要求をはねつけました。しかもイラク石油はカセムに圧力をかけるため、生産を3分の1まで縮小します。カセムは生産計画の練り直しを迫りますが、カセムの要求を満たすものでありませんでした。
怒ったカセムは新しい法律を公布し、油田の90%を接収しました。そして、ソビエトの石油専門家の支援を受けイラク独自で石油生産・販売をしようとしました。

イラク石油は対抗として、セブンシスターズとともにカルテルを結成し、イラク産石油のボイコットを開始しました。その結果イラク破局的な経済危機に陥りました。しかし、革命政府を率いるカセム首相はあらゆる国際協定を拒否しました。

また、カセム首相はアラブ連盟やアラブ石油関係の会合で優位な地位につき、影響を及ぼそうとしているエジプトのナセルを激しく反発していました。

1959年 バース党(アラブ復興社会党)グループがカセム首相暗殺をくわだてるが暗殺は未遂に終わりました。その中に後のイラク大統領となるサダム・フセインも加わり、エジプトへ逃れました。

1959年と1960年の二回にわたり、セブンシスターズ原油公示価格を一方的に値下げしたため、産油国は莫大な損害を被りました。カセムはこれを機に産油国だけをメンバーとする組織を作ろうと、主要産油国のイラン、イラククウェートサウジアラビアベネズエラに1960年9月10日バクダッド集合を呼びかけました。そして結成されたのがOPEC(Organization of Petroleum Exporting Countries、石油輸出国機構)でした。

1961年、イラクの親ソビエト化を恐れた英国はイラクからクウェートを分離し、独立させてしまいました。クウェートイラクと同じ元バスラ州であり、イラクの領土であるとしてカセム首相は激怒し、抗議しましたが聞き入られませんでした。

1963年2月3日、今度はバース党(アラブ復興社会党)のアレフ大佐率いる軍事クーデターにより、政権は転覆され、カセムは処刑されました。その年の後半、クウェートは国連加盟を承認されたのです。

OPEC結成後の数年間はメンバー国間の対立などで結束力に欠け、セブンシスターズ等の大手国際石油資本の行動に影響するほどの力はなく、めぼしい実績はあげられませんでした。しかし、10年後、OPECが大手石油資本と対等の力を持つことになるとは誰一人予想していませんでした。

【参考】
(*1)イラク石油:第一次世界大戦後、オスマン・トルコの解体により、トルコ石油はイギリスの委任統治イラクに帰属し、イラク石油と改称される。トルコ石油はイギリスのシェル、フランスのCFP、アメリカのスタンダード・ニュージャージーが設立した会社
(1)「20世紀の全記録(クロニック)」、小松左京堺屋太一立花隆講談社、1987年
(2)「中東を読むキーワード」浅井信雄講談社現代新書、1987年
(3)「石油の世紀」、ダニエル・ヤーギン(著)、日高義樹(他訳)、日本放送出版協会、1991年
(4)「中東&イスラーム世界史」、宮崎正勝、日本実業出版社、2006年