黒い白鳥が世界の金融システムをぶち壊したと主張するトレーダー兼哲学者のタレブ

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世界に天才、秀才、その道をリードする専門家は沢山おりますが、なぜ、サブプライムローンのリスク商品の危険性を予測し、警告する人々がいなかったのかと疑問に思っていました。

 

しかし、サブプライムローン問題が発生する前の2007年前半に警告していた人々がアメリカに存在していたことを最近知りました。

 

世の中の流れが一部の正しき者の抵抗を飲み込み、食い止める手立てもなく破局に向かうという、歴史が繰り返えされてきました。今回も彼らの警告に対し、自己の主張に固執し、他人の意見を聞かない権力者や利益を享受していた社会のパワーリーダー達は嘲笑い、批難し、無視していたのです。

 

ところが、サブプライムローン問題で金融リスク商品や行き過ぎた金融マンの行動や金融システムにほころびが見え始めた2007年中頃から彼らの主張の正しさが良識ある人々に認識されるようになったといいます。

 

そして、2008年9月のリーマンブラザーズの破たんを契機に世界金融危機が発生し、世界経済を悪化させ不安のどん底に陥った現在、金融危機を乗り切る有力なアイデアや考え方の指針の一つとして注目を浴びているのが2008年10月ノーベル経済学賞を受賞したポール・クーグルマンとトレーダー兼哲学者ナシム・ニコラス・タレブです。
 
ナシム・ニコラス・タレブは金融トレーダーでヘッジファンドを作り、利益を確保した後、作家・哲学者の道に進み、学術論文を投稿し、著作「まぐれ-投資家はなぜ運を実力と勘違いするのか-」や2008年5月著作「黒い白鳥(ブラックスワン)」を出版しました。

 

経済学者のクーグルマンはテレビや新聞に登場して今回の金融危機の最大責任者はグリーンスパンFRB議長と名指しで批判していますが私も破格の講演料をとるグリーンスパンがなぜ金融危機を予測できなかったか不満をもっていましたが経済を良く知らない私はそれ以上のことはわかりません。

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しかし、タレブの思想である「黒い白鳥(ブラックスワン)」理論というのは素人である私にもなるほどと思わせるものがありました。以下、概要をまとめてみました。

 

物陰に隠れてあなたの隙をうかがい、計画をぶち壊しにする白鳥、すなわち「不測の事態が発生すること」ことをタレブは「黒い白鳥」と呼んでいます。「黒い白鳥」は悪いことばかりするわけでなく、幸運をもたらすこともあるといいます。

 

昔、ヨーロッパでは誰もが「白鳥はすべて白い」と思われていた時代があり、分別ある人はこの「白鳥はすべて白い」理論は絶対に否定できないものだと考えられていました。ところが、オーストラリアで「黒い白鳥」が発見されてしまい、この理論は一気に崩れてしまいました。

 

世界は偶然だらけで、本質的に予測不可能である。偶然をコントロールするなんて絶対にできない」とタレブは断言します。そして、社会や未来に関する理論は「不測の事態の発生」で崩壊する可能性あると主張しています。なぜなら私たちは不確実性の荒海を脆弱な船で航海しているからだと言います。

 

初期の人間が暮らしていたような月並みな世界(メディオクリスタン)では出来事はほとんど想定内(統計の正規分布の考え方が通用する世界)の範囲で起こるが、現代はそんな世界でなく「極端な世界」(エクストリミスタン)に生きているといいます。この世界では黒い白鳥がいたるところにおり、勝者はすべてをとり、残りの者はなにももらえないという。

 

現在のシステムは複雑だが、効率が良く、ゆとりがないため、黒い白鳥が現れると全員が損害を被ります。特に金融システムに黒い白鳥が現れると最悪の事態を引き起こすと予言していたのです。

 

エコノミストや金融マンの多くは人間として不完全でありとてつもなく危険な存在であると述べています。なぜなら、彼らは高度な数学モデルや複雑な管理システムを使えば未来をコントロールできるという幻想の世界の住人だからと。また各国の政策担当者は私たちが暮らしている世界を理解していなため、世界を破壊に導く危険な存在とも言っています。

 

我々は黒い白鳥に支配された世界を築きあげてしまいました。黒い白鳥は恩恵を与えるものもいるがほとんどは害悪をもたらすといいます。

 

この世界はこれからどうすれば良いかという問いにタレブはこれから起こることはだれも予測できないから分からないと言います。

 

あれこれと工夫することが大切であると考えており、試行錯誤を繰り返せば物蔭に隠れている黒い白鳥を捕まえることができる言い、これこそが世界に残された希望であると言います。

 

私たちは自分の過ちに気付く能力を持っており、試行錯誤を繰り返し、最良の結果を生むことができます。それが人間にとって救いであるとタレブは主張しています。

 

【タレブの人生のアドバイス
1.重大なことだけ疑いを持つべきである。
些細なことや美的趣味に関しては人間らしく不完全かつ愚かであるべきだ。

 

2.パーティーに行く。
行ってみるまで何が起こるかわからない偶然の幸運が恵まれるかもしれない。

 

3.ネクタイをした人がいう予測を真に受けるのはあまり良い考えではない。
可能であれば、自分と自分の知識を過信している人を茶化そう。

 

4.処刑される時は一番良い服を着て堂々と立つ。
偶然性に対する最後の手段は自分の振る舞い方を維持する。運命の成り行きをコントロールすることはできないが、エレガントに振る舞うかどうかはあなた次第だ。

 

5.古くから存続している複雑なシステムは乱さない。
こうしたシステムの仕組みは私たちの理解を越えているからだ。複雑なシステムを持つ地球を汚してはならない。いかなる「化学的証拠」なるものが提示されたとしても地球は今のかたちのまま後世に残す。

 

6.失敗するときは堂々と失敗する。
失敗を長引かせ、汚いことはしない。最大限に試行錯誤を繰り返し、錯誤の部分を減らしていく。

 

7.負け犬を避ける。
「それは不可能」「絶対に無理」「難しすぎる」というのが口癖の人とは付き合わない。「できない」と言われたときそれが答えだと絶対に思わない。逆に「できる」と言われたとき「おそらくできる」という意味だと受け取る。

 

8.ニュースのために新聞を読まない。
新聞はゴシップと作家の経歴を知るためのもの。何が重要なニュースかを知るための最良のフィルターはカフェ、レストランそしてパーティーで話題になっているかどうかだ。

 

9.一生懸命働けば教授にもなれるし、BMWをもつことができる。
しかし、ブッカー賞ノーベル賞、プライベートジェット機を得るには、労働の他に運が必要だ。

 

10.eメールの返信は目上の人より目下の人から行う。
目下の人のほうがこれから偉くなる可能性を持っており、自分を無視した人のことを末永く記憶する可能性も高いからだ。

 

【参考】
(1)記事「金融危機後の世界に捧げる人生論」、ナシム・ニコラス・タレブ、COURRiER Japon 2008年12月号
(2)記事「ブラックスワンを改革の担い手に」、ニューズウィーク日本版、2008年12・31/1・7新年合併号