石油供給組織は輸送と消費の効率化を図るため、さまざまな技術開発を行いました。
製品の標準化、自動車燃料やディーゼル燃料の改良、コンパクトなパイプラインシステムなどがあり、中でも元も有益だったのが5ガロン(18.9L)入り石油缶だったと言われています。燃料を車に装備された注入管から注入することにより異物が混入することはありませんでした。
連合軍が使用した燃料のうち最も画期的と言われたものが1930年代初めから半ばにかけてオランダとアメリカのシェルの技術者が開発したオクタン価100の航空ガソリンでした。
このガソリンにより航空機の性能はスピードと出力、離陸上昇能力、航続距離、運動性能いずれもそれまでのオクタン価75やオクタン価87のガソリンを使った場合に比べ大幅に向上しました。
しかし、高価だったため戦争前はこの燃料が売れる市場は開発されていませんでした。しかし、シェルやニュージャージー・スタンダードは大規模な投資を行い、開発と生産に乗り出しました。
シェルで生産された100オクタンガソリンは市場に出回らず備蓄されていましたが戦争勃発とともに大市場が誕生しました。
1940年のバトル・オブ・ブリテンと呼ばれたイギリス本土上空の英独両軍の空中戦で100オクタンガソリンの効果が実証されました。
100オクタンガソリンの英戦闘機「スピットファイヤ」は87オクタンガソリンの独戦闘機「メッサーシュミット」を圧倒し、100オクタンガソリンこそ、イギリスの命運をかけた戦いに勝利をもたらしたと言われています。
しかし、生産には精製設備に特別な設備を追加する必要があり、100オクタンガソリンの生産には限りがありました。全軍からの補給要請に設備を追加し、増産を図りますが追いつきませんでした。
1942年、Standard Oil Development Co.によって流動触媒床式接触分解法という画期的な技術が工業化され、100オクタン価ガソリンが効率良く製造できるようになりました。
そして、全米各地で多数の設備を作り、増産を図りました。1945年の需要は開戦初期の7倍に達していましたが石油精製設備はその需要をまかなうことができる能力に達していました。
【参考】
・ノッキング:ピストンエンジンの正常燃焼範囲を超えて必要以上に急激な爆発燃焼が起こり、ガス振動を誘発し、金属をたたくような音を生じる現象
・標準燃料:オクタン価100(イソオクタン100vol%、ヘプタン0vol%)の燃料
・オクタン価:ガソリンのアンチノック性を表す尺度で標準燃料に対するイソオクタンのvol%
・航空ガソリンなどさらにテトラ・エチル鉛を加え、オクタン価100以上にできるがこれは戦後行われるようになる。
・接触分解:触媒を用いて石油留分を分解し、高オクタン価ガソリンを製造することをいう。
・1936年に初めてフードリー式接触分解法(フードリーフロー法の前身)が工業化され、その後の大発展の糸口となった。
・1942年、流動触媒床式接触分解法Standard Oil Development Co.によって最初に工業化された画期的なプロセスである。
・1947年、同様な方式をUniversal Oil Products Co.によって考案され、これらがいわゆるFCC法(流動接触分解法)として確立しました。その後、さらに改良改善され、今日では全世界の接触分解能力の70%がこのFCC法によるものといわれています。(*1)
隣のI社徳山製油所のFCC(流動接触分解装置)で水素添加脱硫で生成した軽い成分ナフサは石油化学原料として私が勤務していた合成樹脂、合成繊維、合成ゴムや各種薬品原料を製造するエチレン装置が受けていました。
FCCの改質重質成分はガソリンとして製造されていました。