ウォルター・ワンゲリンの小説「聖書」3部作を読んだ後、聖書の入門書を参照しながら本物の聖書の内容を概略調べてみました。
旧約聖書は製作年代も作者も不明で口伝によるものが多く、紀元前7世紀前半から紀元1世紀末までのおよそ700年かけて編纂されユダヤ教の正典として確立されました。
旧約聖書は39巻の文書からなり、(1)神話と歴史(モーセ5書、王国成立、バビロンの捕囚など22巻)、(2)文学(詩篇、箴言、雅歌など5巻)、(3)預言(イザヤ書、ホセア書など17巻)に分類されています。
*箴言(しんげん):実践的な教訓や格言
*雅歌(がか) :男女の愛の歌や詩
新約聖書は紀元後1世紀末から紀元後4世紀末までのおよそ300年かけ編纂されキリスト教の正典として確立されました。
新約聖書は27巻の文書からなり、(1)福音書(マタイ福音書、マルコ福音書など4巻)、(2)使徒文書(使徒行伝、パウロ書簡、公同書簡、ヨハネ黙示録など23巻)に分類されています。
新約聖書の文書概要
公同書簡 : 教会に送られた手紙
ヨハネ黙示録 : この世に対する神の審判について手紙形式の記述
紀元50年代に執筆されたパウロの書簡が最も早く、70年代~90年代の4つの福音書、2世紀前半の教会書簡と公同書簡、最後にヨハネ黙示録となります。
紀元393年にキリスト教の正典として確立されました。
聖書は難解な仏教の経典やお経と同様であると思っていましたが聖書の構成内容をみると、西洋人の神との向き合い方や思想を土台として神話と歴史書や詩歌や随筆や紀行文や手紙を体系的にまとめ編纂された一種の古典文学と言っても良いのではないかと思いました。
途方もない年月をかけ、神話、史書、物語、歌集、手紙などの中から神に関する文書を厳選し、体系的にまとめ、現在ではだれでも読めるような形になっており、世界の7億人のキリスト教徒が読んでいる聖書を不十分な知識で比較するのはおこがましいと思いましたが理解するためにあえて日本の古典文学を集めまとめると日本版聖書になるか検討してみました。
日本の場合は紀元後538年に仏教が伝来し、当時の国の統治者は五穀豊穣や国の安寧を願い仏教を導入したが民衆の生活基盤であった神道では仏教と習合した神道が生まれ、仏教では神々は仏や菩薩に姿を変え人々を救うという日本的仏教が生まれました。
平安末期から鎌倉末期にかけて戦乱、大火事、大地震、大風水害、旱魃、飢餓が次々おこりました。
民衆がこれらの災害に苦しみ絶望したこの時代に浄土宗、臨済宗、浄土真宗、曹洞宗、日蓮宗、時宗など6つの鎌倉新仏教が興り、法相宗や華厳宗や律宗など旧仏教の改革活動が行われました。
そして、この時代に起こった民衆の無力感やはかなさやあきらめから無常や運命という日本独特の思想が生まれました。この時代に作られた平家物語、方丈記、徒然草は無常感や運命感が表現されています。
日本独特の無常やはかなさや運命と言った仏教思想のもとに日本最古の神話「古事記」(712)や史書「日本書紀」(720)、和歌集「万葉集」(785)や紀行文「土佐日記」や「源氏物語」、随筆「枕草子」、「方丈記」そして「古今和歌集」、「平家物語」、「徒然草」をまとめれば日本の聖書になるのではないかと思いました。
しかし、よくよく考えてみると歴史が示すとおり、日本には聖書が生まれることは不可能でした。西洋は一神教ですが日本は多くの本地仏を持つ多神教の仏教は思想が統一していないからです。
聖書を少し理解したあと、もう少し掘り下げて勉強してみようと思います。
とりあえず旧約聖書の前半部の天地創造からイスラエル王国成立までをフローチャート図にしてみました。
そして、わかったことは自然界に宿る神仏習合の八百万(やおよろず)の神と違って天地創造したただ一つの神ヤハウェは天と地・自然をコントロールする超越した存在でした。
大火事、大地震、大風水害、旱魃など自然界の災害はヤハウェが堕落した人間や異民族を絶やすためや選ばれた民との契約のためや契約違反した民を罰するために与えるものと考えられています。
神ヤハウェに選ばれたイスラエルの民は神を信仰することを誓い、契約を結びます。
神は異教徒だけでなく神との約束(信仰)を破ると容赦なく殺すという残虐性を持っています。
神が与える罰が大火事、大地震、大風水害、旱魃、飢餓であり、武力です。
神は他の宗教に移ることを契約違反(裏切り)ととらえ、報復して契約違反を悟らせます。
これを悔い改めると言っています。
- ノアの洪水(神に忠実だったノア一家を除き創世記以来数代増加した人類を根絶やした)
- ソドムとゴムラ(堕落した民が住む町を悪徳の町として滅ぼした)
- ファラオの民のエジプト人(ファラオがイスラエルの民のエジプト脱出を拒否したため殺戮)
- カナン(約束の地)の先住民(ヨルダン川東岸の死海の北のエリコとアイの王と住民を女、子供までことごとく殺し、町を滅ぼしている。
ユダヤ民族の父アブラハムはカナン(乳と蜜が流れる地パレスチナ)を自分の子孫が譲り受けるという契約を神ヤハウェと結びました。しかし、約束の地カナンは既にペリシテ人などの異民族が暮らしています。
そこへアブラハムの子孫でモーセから引き継いだヨショアはイスラエル12部族を従え、ヤハウェの支援のもとに異民族をせん滅し、約束の地を手に入れたのです。
しかし、生き残った者や不安を募らせる周辺の先住民は黙っていません。カナンに定住後から初代イスラエル国家成立後も、外部の異民族から絶え間のない攻撃や侵入に悩まされることになります。
士師記はこの時期の領土防衛にあたった英雄や士師(裁きの人)の活躍を描いた物語でした。
【追記】
紀元後に成立した新約聖書では神ヤハウェの子で人間の形をした神イエス・キリストが現れてきます。契約違反を許さないヤハウェと違いイエス・キリストは穏やかで愛があります。
キリスト教ではイエス・キリストは神ヤハウェからこの世に遣わされた神の顕現であり、神の子であり、聖霊であるという三位一体説を採用し、イエス・キリストは神であると言っています。
【参考】
1「新編日本古典文学全集46 平家物語2」、校注・訳 市古貞治、小学館、1994.8.20
2「新編日本古典文学全集45 方丈記 徒然草」、校注・訳 神田秀夫、小学館、1995.3.10
3.「マンガでわかる聖書」、真野隆也、卯月サイドランチ(マンガ)、(株)池田書店
4.「聖書入門」、アンゼルム・グリューン、中道基夫訳、キリスト新聞社、2013.12.25
5.「聖書入門‐講談社選書メチエ」、フィリップ・セリエ、支倉崇晴訳、(株)講談社、2016.12.9
6.「旧約聖書 1955年改訳」、日本聖書協会、三省堂、1965
7.「新約聖書 1954年改訳」、日本聖書協会、三省堂、1965