イブ・サンローラン所有の清朝ブロンズ像を39億円で落札した中国人が支払いを拒否

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世界的ブランド「イブ・サンローラン」を創り上げ、巨万の富を稼いだ有名なフランスのファッションデザイナー「イブ・サンローラン」氏が2008年6月1日に逝去しました。

 

彼の膨大なコレクションは、ピエール・ベルジェイヴ・サンローラン財団が所有していましたが、2009年1月、故イブ・サンローラン氏のパートナー「ピエール・ベルジェ」氏はオークションに出品することを決め、2009年2月23日から2日間にわたり、故イブ・サンローラン氏の美術品・工芸品などが競売会社クリスティーズにより、パリで競売にかけられました。

 

落札額の総額は、個人所蔵品の競売としては過去最高の3億7350万ユーロ(約460億円)となったと報じられました。

 

競売の前に大きな話題になったのは故イブ・サンローラン氏とピエール・ベルジェ氏が所有する18世紀の中国清朝時代に作られたネズミとウサギの頭のブロンズ像です。

 

この2つの像は1856年第2次アヘン戦争がぼっ発し、1860年10月英仏連合軍が北京を占領し、清朝時代の遺構「円明園」から略奪された文化財の一部で干支12支像の内の2体であるとして国家文物局系の民間組織「中華海外流出文化財救出基金」が競売を差し止め、返還を求めて裁判を起こしていました。

 

ピエール・ベルジェ氏は「中国が人権を尊重するのであれば返還に応じる」と発言いましたが、中国外務省は「人権を口実に中国国民の文化的権利を侵害することはまったくばかげたことだ」と一蹴し、中国政府は「戦争時に略奪した文化財を競売にかけることは中国人民の感情を害し、文化的権利を侵害するばかりか、文化財にかんする国際条約にも抵触する」と非難しました。

 

しかし、2月23日、仏裁判所は中国側に法的管轄権がないとして「2体の競売中止および変換」請求を却下したため、競売は行われました。そして、2月25日、1体あたり競売手数料込み1570万ユーロ(約19億3000万円)で落札されました。(2体:3140万ユーロ(約38億6000万円))

 

翌日の2月26日、中国国家文物局はクリスティーズはこれまで中国から略奪・密輸出された文化遺産を数多く競売にかけていると非難し、今後、中国におけるクリスティーズの事業を厳しく監視するとともに今回の措置に相応の代償を課せられるだろうと意味深の警告をしました。

 

3月3日、読売新聞に「サンローラン氏遺品 落札者は中国人 金は払わない」という記事が載りました。

 

個人所蔵品の競売としては過去最高額39億円で落札された問題のねずみとうさぎの頭部ブロンズ像の落札者として「中華海外流出文化財救出基金」の収集顧問で古美術収集家の蔡銘超(カイ・ミンチャオ)氏が名乗りをあげ、北京市内で中華海外流出文化財救出基金の幹部と共に記者会見し、「金を払うわけにはいかない」と宣言しました。

 

AFPニュースによるとクリスティーズの広報担当はクリスティーズのポリシーとして出品者や落札者の身元を明かさないのが原則であると述べました。

 

クリスティーズの競売契約によると、代金が支払われなかった場合、出品者の合意を得て、1ヶ月以内に再度競売にかけられる。そして、最初の競売の落札額より、低い価格で落札された場合、差額は契約を履行しなかった最初の落札者に支払いが課せられるとなっている。

 

契約書によると落札者は落札後直ちに支払いが求められ、引き取りは落札日から7日以内で3月4日夜が期限となるそうですが、既に、支払いおよび引き取り期限は切れているがその後の報道はなく状況は不明です。

 

しかし、ピエール・ベルジュ氏は「2つの像はずっと私の家に置かれていた。そこがブロンズ像の返るべき場所なのだ。私はブロンズ像と共に暮らしていく。」と言っているので2回目の競売は行われないと思われます。

 

3月7日の読売新聞にインド独立の父「マハトマ・ガンジー」の眼鏡、サンダル、懐中時計など5点の遺品がインド政府の中止要求を振り切ってニューヨークで競売にかけられたが、インド人実業家に180万ドル(約1億7600万円)で落札され、落札者はこの遺品すべてインド政府に寄贈する意向をしめしていると載っていました。

 

日本でも明治時代から昭和時代の20年代まで、浮世絵や仏像などの日本の美術・工芸品は国内では価値が認められず海外に大量に流出しましたが戦後の復興を経て、日本に余裕が出てきてようやく日本でも浮世絵などが再認識され、日本の文化財の海外流出を防ぐ運動をしています。

 

一方、浮世絵や仏像などに破格の値段がつくようになったのは、当時、日本では認められず、価値を認めた海外の美術専門家や愛好家が持ち出し、流通させ、取り引きし、価値を高めていった結果であることも事実です。

 

クリスティーズの競売にかけられた運慶作の「大日如来坐像」
 yaseta.hateblo.jp
インド、中国も経済成長が進み、美術品の海外流出を防ぐ気運が高くなっており、文化的な分野にも目を向ける余裕ができてきたのだと思われます。

 

今回の2体のブロンズ像の場合、屈辱のアヘン戦争時に中国から略奪されたものの一部であり、しかも、昨年の日本の仏像の最高値を更新するほどその価値は高くなっています。中国としては何としても取り返したい思う気持ちはわかるような気がします。