次世代無線通信規格5Gのすごさと覇権獲得競争

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2007年Apple社のiPhoneが登場したときは世界中が驚きました。

手のひらサイズの携帯電話がコンピュータ機能を持ち、ガジェットまたはウィジットと呼ばれる小さいプログラムをiPhoneにダウンロードすることにより、電話、メール、SNS、ショッピング、乗り物・観劇・スポーツチケット購入など多くの分野で利用できるようになったからです。

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グーグル社も対抗して2008年にOSをアンドロイド(*1)携帯電話を販売すると携帯電話の範疇を飛び越えあまりにも進化してしまい、スマートフォンと呼ぶようになりました。

(*1)Apple社が開発したApple-OSと同様に、グーグル社が開発したアンドロイドは通信機能に特化した小型コンピュータの基本プロググラム(OS)である。

 

そして、2010年に3Gから第4世代の無線通信規格(4G)のサービスが始まると通信速度、応答速度が速くなり、大量データ処理ができるようになり、世界中の技術者・起業家がさらに新しいサービスを増やことにより、4Gスマートフォンは世界の人々の生活を変え、今ではなくてはならないものになりした。

 

iPhoneの驚きから10年経た2018年、再び、世界中が驚くような画期的なサービスが可能になり、数年先には世界の人々の生活や全産業を一変させると言われる次世代無線通信規格5G対応のスマートフォンアメリカのベライゾン・コミュニケーションや韓国のサムスン電子や中国のファーウエイ(華為技術)が発表しました。

 

そして、2019年4月3日、キャリア(通信基盤事業会社)である韓国KTとアメリカ「ベライゾン」が世界初の第5世代無線通信規格5Gの商用サービスを開始し、各社の5Gスマートフォンが販売されました。(NTTドコモは2019年9月ラグビーワールドカップで試験サービスを開始予定)

 

5Gは4Gではおよびもつかないほどのデータ通信量と瞬時の応答を実現し、さら莫大な数の端末がインターネットに接続できるようになります。

 

【5Gのすごさ】

高速・大容量:映画のダウンロード速度、4Gは1~2時間だが5Gは2~3秒

応答速度:遠隔地のタイムラグ、時速100km走行中の自動車で停止ボタンを押すと4Gは停止まで30m進むが5Gでは3cmで済むため実用化が可能になる。

ネット端末数:4Gは1平方km当たり10万台が5Gは100万台となり、身の回りあらゆるものがセンサーを介してインターネットに接続可能になる。

 

5Gは一般利用のスマホだけでなく、自動車、製造工場、建設、小売り、物流、医療、金融、軍事などあらゆる分野で画期的な利用が見込まれため、2035年までに5Gの利用で生み出す世界の経済効果は1380兆円見込まれると言われています。

 

【世界で5Gの経済効果】

製造業 → 3兆3640億ドル

情報・コミュニケーション → 1兆4210億ドル

小売・流通 → 1兆2950億ドル

公共サービス → 1兆660億ドル

建設 → 7420億ドル

その他 → 3兆8180億ドル

合計 → 12兆3000億ドル(1380兆円)

(英国IHSマークイット調査)

 

5Gを利用ためには5Gキャリアの通信環境やスマートフォンや端末だけでなく、グローバルな通信ネットワーク基地局、接続ステーション(node)、コンピュータ、通信機器、光ファイバー、鉄塔など、端末・操作卓のプラットフォームやソフト(コンテンツ)の構築、そして、これらを構成する部品・装置が必要になります。

 

【5Gの利用環境の建設・製造を狙う企業群】

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5Gがもたらす経済効果と波及効果が大きいことを認識するにつれ、アメリカ政府はある重要な分野で中国に遅れをとっていることに気づき、焦りを覚えます。

 

4Gの基地局・nodeの通信機器など機器通信インフラの2018年世界シェアはスエーデンエリクソン社29%、中国ファーウエイ26%、フィンランドノキア23%、中国ZTE社12%、サムソン、NEC、その他が10%となっています。

 

中国勢は全世界のシェア38%を占めており、アメリカにもファーウエイやZTE製の4G通信機器が多く設置されています。

5Gになった場合でも機器や部品を交換すれば継続可能です。さらにAppleは5G対応のiPhone開発が遅れて販売シェアがサムスンとファーウエイに奪われそうと焦りだしています。

 

アメリカにとって利益はさることながら情報が中国に流出してしまうことがもっとも恐れているのです。

 

アメリカや欧米諸国のインターネット基地局やnodeのファーウエイ通信機器に密かにバックドア(侵入口)などが仕掛けられると機密情報を盗まれ、軍事に使われてしまう恐れがあります。

ファーウエイは中国人民解放軍出身の任正非氏が創業した民間企業です。また、中国政府から情報提供を求められた場合、民間企業は提供しなければならないと法律に定められているからです。

 

もし、5G技術で共産主義中国が世界でトップシェアを獲得すれば、習近平政権の外交方針である「欧米主導の世界秩序の枠組みを変える」、「中国自らルールメーカーとなる」が安全保障・製造・金融など多くの分野で可能になります。

 

アメリカが中国に貿易戦争を起こしたのはアメリカの貿易赤字解消のためだけではないのです。

 

自由・民主主義の世界秩序を守ることはもちろんだが、インターネットを産み出し、コンピュータの頭脳であるCPUそしてコンピュータ、iphoneやアンドロイドなどのスマートフォンを最初に考え、製品化し、世界をリードして来たアメリカとしてはメンツにかけても5Gの技術開発や利用分野でも世界のリーダーの座を中国に奪われてはならないのです。

 

【参考】

冷戦時代、ソ連の核搭載大陸間弾道弾(ICBM)よるアメリカ都市攻撃から設計図などの軍事情報や政府機関情報を守る手段として、アメリカ国防総省は軍・政府・大学・研究機関とともにデータ分散保管ネットワークシステムARPANETを1969年から1991年まで20年余りの歳月をかけ開発し、このARPANETを民間に開放したのがインターネットの始まりなのです。

 

国防省・政府機関ネットワークシステムARPANETが開発される。

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1991年、ARPANETを民間に開放し、インターネットとなる。

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 1970年代のコンピュータは大型コンピュータのみで基本プログラム(OS)はIBM、富士通など企業毎ありました。その後、OSの標準化や企業の集約化が図られ、さらに半導体・CPU・ハード・ソフトの進歩で小型化が進み、インターネットの開発・進歩により、インターネット基地局やデータベースなどの中継コンピュータ(サーバー)と端末としてのパソコンになり、一方では電話回線を使いメールと電話機能を持つ携帯電話が普及してきました。

 

民間の無線通信の分野では1980年代のアナログデータで通話だけのポータブル携帯電話第1世代の無線通信規格(1G)、1990年代のデジタル化が始まり、通話・文字・絵文字の第2世代の無線通信規格第(2G)、2000年代のインターネット接続限定使用iモード(ガラケー携帯電話)、写真、音楽など利用可能な3G、2010年代のスマートフォン(含むiPhone)、SNS、動画の利用を可能にした4Gと発展し、いまでは4Gスマートフォンは生活になくてはならないものになっています。

(日本は3G携帯電話で世界を席巻しましたが高性能で使い易かったため日本のユーザーのみ3G携帯電話を使用続けたため、日本メーカーは海外勢の単機能安価な4G携帯電話に世界シェアを奪われ、4Gスマートフォンではアップルやサムソンに敗れ、4Gスマートフォンになっても本来のスマホ仕様と日本独自のガラケー仕様があり、コスト高を引き起こし、国際競争力を落としているのが現状と思われます。)

 

【参考資料】

(1)「5G元年生活を変えてきた通信の世代交代」、週刊ダイアモンド、2019.3.23

(2)「世界中が5Gに群がる」、NIKKEI BUSINESS、2019.4.15

(3)「米中対立の根源 経済の構造問題」、読売新聞、2019.6.16

(4)「米中貿易 着地見えず」、読売新聞、2019.6.30