大学内のスカーフ着用解禁はトルコのEU加盟と民主主義を遠ざけるの?

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2008年2月8日の読売新聞によるとトルコでは1980年代以降、公的施設でスカーフ着用が禁止されてきましたが大学でイスラム教徒の女子学生がスカーフを被ってしても良いという憲法改正案が、イスラム系与党の公正発展党から提出され、賛成多数で可決したと報じられました。

 

2月10日の読売新聞によるとこれに対して共和人民党トルコ共和国建国以来の世俗主義に反し、イスラム主義拡大の一歩として、憲法裁判所に申し立てると表明しました。また、世俗主義を擁護する女性団体や労働組合10万人を超える市民が国旗を手に容認反対を訴えたと報じられました。

 

たかがスカーフを被るか被らないかでこんなに大騒ぎするほど問題なのかと日本人である私は思いましたがこれには深いいわく因縁がありました。

 

1923年、オスマントルコ崩壊後、「ケマル・アタチェルク」がトルコ共和国を建国し、初代大統領となり、政教分離世俗主義を国是とし西洋型の近代国家を目指しました。

 

1987年から、イスラム教徒99%を占めるトルコはイスラムとキリストの懸け橋となるべくEU加盟を悲願として運動してきました。2002年、中道右派イスラム派の公正発展党(AKP)が政権を握った後は政治的安定を図るため宗教問題を避け、死刑廃止、軍部の政治関与を弱め、言論の自由を推し進め、真のヨーロッパ化を目指してきました。

 

しかし、トルコの抱える問題はまだ、未解決であるとしてヨーロッパ諸国はトルコのEU加盟に疑問をなげかけてきました。例えば、ギリシャ系住民の南部とトルコ系住民の北部に分断されているキプロス問題では既にEU加盟を果たしている南部のキプロス共和国の承認をトルコが拒否していること、1960年から1997年まで世俗主義のトルコ軍が4度も政権を転覆させており、イスラム系政権の安定性を不安視していることが挙げられます。

 

結局、2006年12月EU加盟交渉でも承認されず凍結されたままになっています。トルコ国内でも世論調査でEU加盟賛成派は2004年の67%から2006年32%までに落ち込んでいると報告されました。

 

トルコのEU加盟交渉の凍結

yaseta.hateblo.jp

2006年11月30日、イスラム教の「ジハード(聖戦)」を批判してイスラム諸国を激怒させたローマ法王ベネディクト16世のトルコ訪問は世俗主義派が歓迎したのに対し、イスラム主義者は反対デモで迎え、世俗主義派とイスラム主義派の不信感が表面化してきました。

 

2007年7月22日総選挙が行われ、イスラム系の公正発展党(AKP)が341議席世俗主義派の共和人民党(CHP)が112議席イスラム系極右の民族主義者行動党(MHP)が71議席、無所属が26議席(うちクルド系23)という結果でした。イスラム系は550議席の3分の2以上の412議席を獲得しました。

 

そして、2007年8月28日トルコ国会の第3回大統領選挙でイスラム系与党の公正発展党(AKP)のアブドラ・ギュル外相が半数を超す339票で大統領に当選しました。トルコ大統領は歴代、世俗派が占めてきましたがトルコ共和国建国以来、初のイスラム系大統領が誕生しました。

 

アブドラ・ギュル大統領の宣誓式に世俗主義の軍首脳や一部の共和人民党議員がそろって欠席し、イスラム系政党出身の大統領に対する無言の抵抗を示したり、新大統領が国是である世俗主義堅持と国民融和を呼び掛けに対し、世俗主義勢力はイスラム教を象徴するスカーフを着用したハイルニサ夫人の姿にイスラム化の助長を疑心暗鬼していると新聞が伝えていました。

 

中国、インド、産油国だけでなくトルコも経済を成長続けています。文化や経済は既に西洋的になっており、経済的余裕のある中間層や富裕層がこれまでの世俗派であるビジネスマンや公務員や西洋化した知識層から中小企業の人々にも現れてきているそうです。トルコはイスラム系では珍しく製造業が急成長し、2006年、中東、北アフリカを含め外国企業投資受け入れ額が第1位になっています。(2位エジプト、3位UAE、4位サウジ)

 

この理由は市場開放など振興策を推進していることもありますがイスラム教国でありながらビジネス環境が欧米と大差がなく、また政治的リスクが低いとみられていることが大きな理由と言われています。

 

2007年イスラム系のギュル大統領の就任を軍が強硬な手段を取らなかったことは国民の大多数がイスラム系改発展党の民主主義を進め方に賛成していることから軍が政治に介入して国を混乱させること得策でないと判断し、イスラム系大統領を渋々受け入れたと見られています。

 

それだけにスカーフ着用禁止法の解禁がイスラム化を拡大させ、イスラム原理主義者を増加させ、ビジネス環境を悪化させ、経済を低迷させてしまうことを世俗主義派は恐れていると思われます。
 
【参考】
(1)「欧州になれないトルコの悲劇」、ニューズウィーク日本版New week、2006.12.13
(2)「イスラムでは珍しい製造業振興トルコ、エジプト急成長の秘密」週刊ダイアモンド、2007.3.24
(3)「トルコ いつになればEU加盟は実現する?」、ニューズウィーク日本版New week、2007.4.18
(4)「トルコ軍沈黙の意味」、ニューズウィーク日本版New week、2007.9.5
(5)「ギュル大統領 誕生 イスラム系初」、毎日新聞、2007.8.29
(6)「アジアを読む スカーフ解禁とトルコの世俗主義」NHKニュース解説、2008.2.7
(7)「スカーフ解禁案 可決」読売新聞、2008.2.8
(8)「大学でのスカーフ解禁」読売新聞、2008.2.10