生態系など環境変化が危惧される中国の巨大プロジェクト「南水北調」

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2007年6月のNHKスペシャルの「激流中国 北京の水を確保せよ~しのびよる水危機」や年末の読売新聞の特集記事「中国疾走 五輪前夜」など、中国水不足の深刻さについて、たびたびテレビや新聞で報じられています。

 

中国の北部や黄河流域は昔から慢性的に水不足に悩まされてきていますが、経済成長が著しく、さらに2008年オリンピック開催が決まってから、北京市は都市開発・建設ラッシュ、食生活の変化、洗車場の増加、街の緑化などにより、水の使用量が急速に増加しました。

 

北京市の北にある密雲ダムの貯水量は地球温暖化の影響や開発でこの10年で3分の1にまで減っており、近い将来には北部の生活、農業、工業活動に大きな支障が出てくると懸念され、早急な対策を求められています。

 

中国政府は長江の水を北京や北部地域に送る巨大運河を建設し、水不足解消を図るという壮大なプロジェクト「南水北調」を2002年から続行しています。

 

南水北調
①東ルート:2002年12月着工、南京・上海の間の南京寄りの揚州付近の長江から「北京・上海高速鉄道」を徐州付近で交差してほぼ並行に天津までの伸びる1150kmの大運河
(概略の通過地域:揚州-井沢湖-徐州-駱馬湖-南四湖-東平湖-聊城-徳州-清州-天津)

 

②中央ルート:2003年12月着工、長江中流三峡ダムの北の長江支流の漢江の丹江口ダムから取水し、洛陽と鄭州の中間で黄河を横断し、石家荘、保定付近で北京行きと天津行きに分かれる全長1246kmの大運河。
(概略の通過地域:丹江口ダム-老河口-南陽-方城-焦作-安陽-石家荘-保定-北京、保定-天津)

 

③西ルート:長江上流の通天河と支流の雅礱江(がろうこう)、大渡河上流でダムを建設し、長江と黄河分水嶺・巴顔喀拉山脈に運河用のトンネルを掘り、長江上流の水を黄河上流に送る運河。
海抜3000~5000mの高地での建設作業、100kmのトンネル掘削作業と難事業で現在もまだ検討段階である。

 

(注)ルート:(1)、(2)を参考、概略の通過地域:(3)の中国国務院「南水北調」弁公室HPの地図から読み取り作成したもの

 

長江から北京などに水を引く「南水北調」の構想は1952年に毛沢東の発案で、それ以来50年間に渡り検討されてきたそうです。

 

毛沢東は中国の歴史にみられるように膨大年月をかけ、人海戦術を使えば可能であると考えたのでしょうが、50年経て、経済に自信がついてきた現在、なんと5000億元(約8兆円)を投入し、ようやくその夢を実現しようとしています。

 

しかし、中国で最も大きく豊かな河川をあまりにも大規模に人工の手をいれるため、生態系や自然環境が破壊されると危惧している中国の学者も多くおりますが事業は着々と進んでいるようです。

 

また、最近、長江と黄河の源流である三江源地域は地球温暖化の影響で氷河が縮小しており、黄河の流量は1980年代の約半分になり、長江の水量も減少の傾向があると報告されています。

 

さらに、長江や黄河の水質が悪化しているそうですが対策はまだ十分でないそうです。そして取水により水量が減少すると中流下流地域は影響を受けることも危惧されています。

 

このように北部地域は豊かさが向上する代償に南部地域は厳しい生活が強いられる皮肉な現象がおこるかもしれません。

 

西部大開発
南水北調は2000年3月の中国全国人民代表者大会で決定された開発政策「西部大開発」の一つです。この政策は経済発展から取り残された内陸西部地域の開発政策で「西電東送」、「南水北調」、「西気東輸」、「青蔵鉄道」の4つが巨大プロジェクトからなっています。

 

西電東送
中国の東部沿岸地域(広東、上海、江蘇、浙江、北京、天津、唐山地区)の電力不足を解消するための巨大プロジェクトで、総事業費は1000億元(1兆6000億円)以上と言われています。

 

西気東輸
中国西部にあるガス田から上海などの東部沿岸地域までパイプラインを建設して天然ガスを送るプロジェクトです。パイプラインの総延長は約4000km、総工費は約1400億元(2兆2000億円)を要したといわれています。パイプラインは2004年に完成しており、タリム盆地のガス田から天然ガスの供給が開始されているそうです。

 

青蔵鉄道
西部青海省西寧とチベット自治区首府ラサを結ぶ1956kmの高原鉄道です。特に、チベット区間では海抜5,000mの世界一の高原を走るため医師や看護師も同乗して高山病に対処しているそうです。2006年7月に完成してNHKテレビでも紹介されました。
 
【参考】
(1)「中国疾走 五輪前夜」記事、読売新聞、2007.12.25
(2)「南水北調」、フリー百科事典「ウィキペディアWikipedia)」
(3)中国国務院「南水北調」弁公室HP