石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の停止を求めロシアが提訴

イメージ 1

9月6日の読売新聞の一面に“ロシアがサハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」プロジェクトの取り消しを裁判所に提訴した”ことを報じました。

「サハリン2」の事業主体「サハリン・エナージー」社にはロイヤル・ダッチ・シェル(55%)と三井物産(25%)、三菱商事(20%)が資本出資しています。

「サハリン2」はサハリン北部の沖合いの油・ガス田から、石油はそのまま、天然ガスは液化して液化天然ガス(LNG、Liquefied Natural Gas)にし、サハリンを縦断する石油パイプラインとLNGパイプラインを敷設し、南部のプリゴロノドエに送り、そこから石油やLNGを船で出荷するプロジェクトです。

ロシア天然資源監督局は9月5日、「環境保全措置を怠っている」として、「サハリン・エナジー」社に事業許可の取り消しを求めモスクワ市の裁判所に提訴したのです。

ロシアのプーチン政権は昨年から、「天然資源の国家管理」という戦略を打ち出しています。

【参考】「ロシア石油会社「ユコス」の破綻」  

yaseta.hateblo.jp

「サハリン2」にはロシア政府系ガス企業「ガスプロム」が以前から参画を求めており、「サハリン・エナージー社に対するロシア政府の揺さぶりではないか」という見方も出ています。

「サハリン2」は2008年夏から日本などに液化天然ガス(LNG)の供給を開始する予定ですが、裁判が長期化すれば、既に東京電力東京ガスなど国内8社が契約しているLNG年間473トン(2005年輸入量の8%)が輸入できなくなり、世界的に逼迫している状況で大きな打撃になることが予想されます。

「サハリン2」プロジェクト差し止めは環境保護団体からも上がっていました。パイプラインの海底部分の海域はコククジラの世界有数の繁殖地でコククジラの生態系に大きく影響しかねないと主張していました。

さらに敷設されるサハリン内陸でも1000を超える中小河川を横断すると見られ、川を遡上するサケなどへの影響を心配する声もありました。

サハリン・エナージー社に融資する欧州復興開発銀行(EBRD)は融資の実行の可否を判断するための関係者間の公開協議会を2006年2月より始めています。

「サハリン2」の総事業費は上記環境問題対策のため、2005年7月、当初予定していた約100億ドル(約1兆2000億円)から、約200億ドル(約2兆4000億円)に倍増しており、出荷時期も当初予定の2006年末から2008年夏に延期し解決の方向が見えた後、今回のロシアの裁判提訴です。

2006年3月までに三井物産は総投資5000億円のうちの6割の3000億円、三菱商事は4000億円のうち2400億円を支払っていますのでプロジェクトが頓挫すれば多額の損失が発生します。

あの1980年(昭和55年)の「イラン・ジャパン石油化学建設計画」の失敗が思い出されます。

1973年4月、三井物産を中心に三井グループ各社が参加し、NPC(イラン国営石油化学)と合弁でイラン・ジャパン石油化学(IJPC)を設立し、イラン・ジャパン石油化学工場の建設を開始しました。

しかし、1973年10月オイルショック、1979年のイスラム革命で建設費高騰し、完成間際の1980年イラン・イラク戦争により長期間工事が中断しました。

日本側は再建を断念、清算金1300億円を支払い、合弁事業を解消しました。

その後、NPCは韓国企業を使って工場を再建しましたが日本側は支援した政府も三井グループも莫大な損失を出してしまいました。

「サハリン2」も「イラン・ジャパン石油化学建設計画」の二の舞にならないよう祈りたいと思います。