日本製鉄による20世紀初頭の金融王J.P.モルガンが設立したUSスチールの買収劇について

モルガン家とロックフェラー家の年表No1

モルガン家とロックフェラー家の年表No2

2025年6月19日、日本製鉄によるUSスチール買収は一時政治問題まで発展しましたが経営に一部条件付きで決着しました。
果たして、日本製鉄は中国が圧倒している世界シェア奪い、再び世界一に輝くのか、はたまた、東芝のウエスチングハウス(ロックフェラー系財閥 参考1)買収失敗の二の舞になるか世界は注目しています。

 

上記の表を参考にして世界に君臨したUSスチールの興亡と日本製鉄によるUSスチール買収劇についてまとめてみました。

 

20世紀初頭の1901年2月25日、モルガン系財閥の鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは当時、世界一鉄鋼メーカー カーネギー製鋼を金融王J.P.モルガンに売却しました。
そして、J.P.モルガンは自分所有の9社と合わせ全米鉄鋼生産の7割以上を占める世界一の巨大鉄鋼会社USスチールを設立しました。

 

(余談:1901年当時、鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーは「富める者は大衆の利益のためにその富を使うべきだ」という「愛の福音」を抱き、自ら教育・社会事業に大金を投じました。1902年までには科学研究奨励のためワシントン・カーネギー研究所、各地に公共図書館、美術・博物・音楽のためのカーネギー会館、科学技術学校(このなかから後のカーネギー・メロン大学が育つ)を設立、そして教育・福祉事業を推進するカーネギー財団を設立しました。)

 

また、USスチール設立20日前の1901年2月5日(明治34)に福岡県遠賀郡八幡村の官営八幡製鉄所(現在の日本製鉄)、第1号溶鉱炉160トンの火入れ式が行われ、日本初の近代製鉄が始まったと報じられました。しかし、トラブル続きで1901年の粗鋼生産量は1000~2000トンでした。

1900年粗鋼生産量
米国 1035万2000トン(当時の世界の38%を占める)
独逸  664万6000トン
英国  498万
日本        1000トン

一方、J.P.モルガンのUSスチールは単独でも米国粗鋼生産の3分の2を占め、世界最大の企業となり、米国の繁栄を支えてきました。
しかし、1970年代以降、USスチールを含めたアメリカの粗鋼生産量は減少し始めます。従業員数は第2次世界大戦中の1943年は34万人でしたが、現在では1万5000人にまで減少しています。

日本経済は高度成長とともに粗鋼生産が増加し、1970年には新日本製鉄(現在の日本製鉄)単独で粗鋼生産量世界一になりました。

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1974年頃、アメリカの粗鋼生産量は年々減少、戦後の復興、その後のインフラ建設・軍事・技術開発が急増してきたソ連や最新技術で台頭してきた日本やEU(欧州企業)の製鉄企業が増加してくるとさらに減少していきました。

1974年粗鋼生産量
ソ連 1億3630万トン
米国 1億3320万トン

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1980年頃には日本が二位になると世界三位に落ち込みました。

1982年粗鋼生産量
ソ連 1億4132万トン
日本   9954万トン
米国   6764万トン

1990年頃以降、韓国、中国、インドの企業が台頭し、特に中国の粗鋼生産量が急速に増大し、中国の安い鉄鋼が次第に世界市場を奪っていきました。
そして日本の粗鋼生産量も減少、そして2022年にはアメリカは1120万トンまで衰退してしまいました

2011年鉄鋼メーカー別の世界ランキング

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金融王J.P.モルガンと死の商人ピエール・サミュエル・デュポンと組んで完全買収した世界一自動車メーカーGM(ゼネラル・モーターズ)の落日

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中国にる世界鉄鋼市場の浸食に歯止めをかけ、復活を図るため、日本製鉄は2023年12月18日、かつての世界一鉄鋼メーカーUSスチール買収する挑戦に出ました。
すると、アメリカ政府は鉄は国の基礎となる企業であり、安全保障にかかわるとして政治問題に発展し、中止命令がだされました。

しかし、2025年6月19日に日本製鉄はアメリカ政府と2028年までに約110億ドル(約1兆6000億円)の投資や特定事項として拒否権が発生する(黄金株)を織り込んだ「国家安全保障協定」を結び、ようやく、USスチール買収が認められたのです。

日本製鉄はアメリカ鉄鋼業を再生するとともに、日本の粗鋼生産量を伸ばし、再び世界一を復活するか、それとも、東芝のウエスチングハウス買収失敗の二の舞になるか世界は注目しています。

【参考】
ロックフェラーの石油トラスト

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(1)ウエスチングハウスと東芝による買収
20世紀初頭(1901年)にロックフェラー系列の電力王ジョージ・ウエスチングハウスが設立したウエスチングハウス社は拡大を続け、コングロマリット企業として発電、送電機器、家電、ラジオ・テレビ放送機器など多角的経営を展開し、特に電気技術や原子力技術の分野で世界有数の企業でした。

1990年代に入り、経営が悪化、1995電機部門はアメリカの大手放送会社であるCBSに売却、1999年に原子力部門をイギリスの英国原子燃料会社BNFL(British Nuclear Fuels Limited)に売却しました。

東芝は2006年10月、BNFLとウエスチングハウス社の株式を54億ドルで買収しましたがウエスチングハウス社が事業プロジェクト失敗により2017年破産し、東芝は屋台骨を揺るがす1兆円の損失を被りました。この事例はM&Aの失敗例として残りました。


(2)日本製鉄、USスチールの買収成立を発表、NHK Web ニュース、2025.6.19
(3)20世紀の全記録、小松左京堺屋太一立花隆講談社、1987.9.21